香木 |
加熱して芳香を楽しむのに用いられる「沈香(じんこう)」と、素材そのものが香る「白檀(びゃくだん)」があります。 |
沈香 |
ベトナム、カンボジア、タイ、ラオス、ミャンマー、インドの一部、マレーシア、中国、インドネシア、西イリアンなど熱帯、亜熱帯圏の国々に自生する香木の一種で、正しくは「沈水香木」(ぢんすいこうぼく)と言い、ジンチョウゲ科ジンコウ属の植物が風雨などによってダメージを受けた時、その部分からの腐食防ぐためにダメージ部から分泌する樹脂がもとになって生まれます。 それが長い歳月蓄積されて厚くなり、ある種のバクテリアの働きで沈香となります。 また、傷ついたり、虫食いの穴ができると同様の反応でその周囲に樹脂の層が出来て沈香になります。 樹脂が沈着することで比重が増して水に沈むようになります。これが「沈水」の由来です。 生きている木から採取する場合や、朽ち果てて埋もれた木から採取する場合がありますが、ただ生えているだけでなく、様々な要因がないと沈香にはなりません。 沈香ができるメカニズムは謎が多く偶然性にも左右されるので、人工的に生成することは極めて難しくとても貴重なものとして扱われています。 沈香のもとになる木は、大人の木になるまでに約20年かかり、沈香ができるまでに50年、高品質の沈香になるには100〜150年かかると言われて、それらは非常に稀少価値が高い天然香木です。 元々は水に沈むものだけが沈香(沈水香木)と呼ばれていましたが、現在では水には沈まないが香りは特級品の黄熟香や、ほんの少しだけ沈香油が入った若いものまで総称して沈香と呼ばれています。 |
香り |
沈香は通常時は無香ですが、熱することで独特で複雑な芳香を放ちます。 甘い、酸っぱい、辛い、苦い、鹹い(しおからい)などの味に例えて表現されます。 沈香の香りは産地等によってそれぞれ異なります。 また、同じ沈香でも、裏と表、表面と内部、色の濃い箇所と薄い箇所等、部位が数ミリ離れただけでも香りが異なったりします。 |
種類 |
・伽羅 沈香の中でも最上級品で「香りの王者」とも評されています。 ベトナム中南部のごく一部の地域でしか採取されない、もっとも稀少な香木です。 その入手の困難さから、今では「まぼろしの香木」とも呼ばれ、グラム数万円〜10万円以上で取引されているものもあります。 非常に貴重なものとして乱獲された事から、現在では、ワシントン条約の希少品目第二種必ずしも絶滅のおそれはないが取引を厳重に規制しなければ絶滅のおそれのある種となりうるもの)に指定されています。 時の権力者であった足利義政や織田信長などが好んで焚いたと言われています。 ・シャム沈香 インドシナ半島(タイ、カンボジア、ベトナムなど)で産出される沈香で香りの甘みが特徴です。 ・タニ沈香 インドネシアで産出される沈香で香りの苦みが特徴です。 |
形/大きさ |
「刻み」や「チップ」等と呼ばれる小さな破片状のものは、おもに香りを楽しむものとして用いられます。 「姿物」と呼ばれるものは、その形状や大きさ、存在感ゆえに床の間の置物等、装飾品として用いられたりします。 |
六国五味 |
香道の対象とする香は沈香で、沈香の香りの微細な違いを鑑賞するのが香道の極みとされています。 香道では産地(木所(きどころ))と味(香り)によって分類され、六国五味といって6つの産地と5つの香りで分類されます。 産地(木所(きどころ))による六つの分類を「六国」と呼びます。 ・伽羅:ベトナム産:五味に通ずる。 ・羅国:タイ産:甘味。 ・真那加:マラッカ産:無味。 ・真南蛮:インド東海岸のマラバル産:酸味、苦味。 ・寸聞多羅:インドネシアスマトラ産:苦味、鹹味。 ・佐曽羅:インドサッソール産:鹹味。 5つの香りでの分類を「五味」と呼びます。 ・辛(カライ) ・甘(アマイ) ・酸(スッパイ) ・苦(ニガイ) ・鹹(シオカライ) |
楽しみ方 |
沈香の焚き方には香木の香りを聞く「聞香(もんこう)」と空間に香りを漂わせる「空薫(そらだき)」があります。 ・聞香 聞香とは、文字どおり、香炉から「香りを聞く」ということであり、嗅ぐのとは異なり、心を傾けて香りを聞く、心の中でその香りをゆっくり味わうという意味です。 香木の香りを深く味わうには一番適したたき方です。 お気に入りの香木をじっくり聞くのも六国の香りを聞き比べるのも、奥深く楽しいものです。 ・空薫 昔ながらのお香のたき方です。平安時代には部屋や衣裳に薫物の香りをたきしめる時や部屋の雰囲気を変えたい時に用いられました。 間接的に熱を加えるこの方法は香木や印香も同じようにたくことができます。 空薫は銀葉を使う方法よりも強く香りますのでお部屋など広い空間で香りを楽しむ時にお勧めのたき方です。 聞香後の香木ももう一度楽しめます。 それぞれの焚き方は「お香の焚き方」をご参照ください。 「お香の焚き方」はコチラ |
小話 |
・日本最古の記録 推古天皇3年(595年)4月に淡路島に香木が漂着したのが沈香に関する日本最古の記録で、沈香の日本伝来といわれています。 ひと抱えもある漂着木片を火の中にくべたところ、よい香りが辺り一面に広がったので、その木を朝廷に献上したところ重宝されたという伝説が『日本書紀』に記載されています。 ・正倉院の黄熟香 奈良の正倉院には長さ156cm、最大径43cm、重さ11.6kgという巨大な香木・黄熟香(おうじゅくこう)が納められています。 鎌倉時代以前に日本に入ってきたと見られており、足利義政・織田信長・明治天皇の3人が切り取った後が付箋で明示されているそうです。 ・戦国武将と沈香 古来より薬用としても知られ、鎮静効果があると言われています。 戦国時代の武将は、カブトに沈香を焚きしめて出陣し、沈香の香りがもつ沈静作用で戦で高ぶる気を鎮めたといわれています またカブトの汗臭さやカビ臭さを抑える働きもあったようです。 ・香木の日 沈水香木の伝来した4月(歴史的事件)と、「香」の字を分解した「一十八日」(言葉遊び)をあわせて4月18日を「お香の日」として全国薫物線香組合協議会が制定しました。 |